①はじめに
皆さんは「専門医」という言葉を目にしたことがあるでしょうか。病院や診療所の看板やホームページ、テレビや新聞、雑誌記事での医師紹介などに目を凝らしていただくと、日常接する場所にさまざまな領域の専門医が活躍していることを感じられるでしょう。
そして「専門医とはどのような医師なのか?」と疑問をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。ここでは皆さんのまわりにいる専門医とその制度について簡単にご紹介をさせていただきたいと思います。
②専門医とは
専門医と聞くとスーパードクターのような「神の手」をもつ医師のことを想像されるかもしれません。しかし実際は内科や外科、小児科、産婦人科などよく知られた診療科において標準的で適切な診断・治療を提供できる医師のことです。ここでいう「標準的」という言葉は、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の診断・治療という意味です。専門医はそれぞれの診療科において、その時点で科学的に証明された最も効果の高い医療を提供できる医師です。
日本の医師免許取得者の90%以上は専門医あるいは元専門医といわれています。専門医は原則として5年ごとに更新があり、その間の医療の進歩を学ぶとともに診療実績を積むことなどが専門医の更新認定基準として義務づけられています。このような更新制度によって日本の医療の質が保たれています。
皆さんがかかっている医師に「先生のご専門は何ですか?」と気楽に尋ねてみてください。ほとんどの医師は何らかの専門医であったり元専門医であったりするので、「私の専門は○○科です」と教えてくれると思います。
③日本専門医機構認定専門医とは
これまで日本の専門医制度は各学会が担ってきました。たとえば、産婦人科専門医は日本産科婦人科学会が、皮膚科専門医は日本皮膚科学会が、小児科専門医は日本小児科学会がそれぞれ独自の制度の中で養成してきました。
ここで患者目線に立って考えてみると、「それぞれの診療科ごとに専門医が独自の制度で運用されているということは、専門医の認定や更新の基準も違うということでしょうか?」という疑問を感じられるかもしれません。まさにその通りで、米国のように標準化された専門医の認定基準が日本にはなかったのです。このため、学会独自に認定された専門医の種類が数多く、名称や診療内容が国民にとってわかりにくい、患者が受診する判断材料となりにくい、専門医の質の担保がはっきりしないなどの課題をかかえていました。
この課題を解決するため、1981年以降、学会としても第三者による専門医認定制度設立に向けて本格的な議論が進められてきました。2014年、学会ではない第三者機関として日本専門医機構が発足しました。
2018年からは各基本領域間で統一された新制度で専門医養成が始まりました。2021年度には認定試験に合格した日本専門医機構認定専門医が初めて誕生しました。
これまでの学会専門医についても、日本専門医機構の統一された更新認定基準で専門医資格の更新が始まっており、更新認定基準に合致した旧来の専門医は全て日本専門医機構認定専門医へ移行することとなり、国民目線から見た専門医の質の担保がこれまで以上に進むことになります。
④専門医制度の概要
現在、大学医学部を卒業し医師国家試験に合格し、2年間の臨床研修を終えた医師の多くが高度な資格である専門医の取得を目指しています。
専門医を目指す医師はまず自分が目指す診療科(基本領域)を決め、専門研修プログラムに所属して指導医のもとで決められた年限(3~5年間)の専門研修を専攻します。基本領域には19領域があります(表参照)。専門研修では一つの病院にとどまらず様々な地域、医療機関で診療に従事して、技術習得や経験を重ねていきます。これは地域あるいは病院の規模によって経験できる疾患が異なるため、多様な経験を積んで様々な疾患を診療できるようになるためです。
一方、専門研修では上記のプログラム制以外に、出産、育児、介護等のライフイベントにより、休職、離職を選択する医師らが柔軟な研修施設選択や研修期間の延長ができるように、固定されたプログラムではなく専攻医のライフイベントに沿って研修を組めるカリキュラム制(単位制)を選ぶこともできます。
専門研修修了後は領域ごとに実施する認定試験を受け、試験で合格した医師だけが専門医を名乗ることができます。専門医には原則5年ごとの更新があり、更新のための基準も定められています。
基本領域の専門医を取得した後には、より専門性の高い診療科(サブスペシャルティ領域)の専門医を取得することができます。たとえば、内科専門医を取得した後、消化器内科や循環器内科、呼吸器内科などのどれか一つを選んでサブスペシャルティ領域専門医を取得するという形です。日本専門医機構が現在(令和4年4月1日時点)で認定しているサブスペシャルティ領域は表をご参照ください。
専門医の養成においては、専門家による自律を基盤として、日本専門医機構が各基本領域学会の各制度に助言・評価し、標準化と質の担保、検証、専門医と研修プログラムの審査をしています。
一方で、皆さんが国内どの地域で診療を受けても適切な診断・治療を受けられるように、医師の地域偏在等を助長することがないよう、地域医療に十分配慮しています。
基本領域およびサブスペシャルティ領域一覧